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▲1977年留学日記にもどる
1977年11月
11/5/77 SAT

ちょっと前にイタリア旅行から帰って来たところ。短い旅だったけれど、恋もされたり、買い物もしたし、文句なく楽しかった。ベニスが最高、新婚旅行はベニスに決めた。サンマルコ広場で風に吹かれて音楽を聞きながらすごした。あそこには楽隊があって、演奏しているのです。フィレンツェでは、同じクラスだったルチアがホテルまで会いに来てくれて、思いがけず安い買い物できたし、イギリス人のともだちもたくさんできた。ローマでは、もう少しでバスジャックしそうだっし、だれもお金払わずにバスに乗り込んで騒ぎまくって、地元のローマっ子も呆れていた。イギリス人と仲良くなるにはいっしょにホリデーを過ごすのがいちばんみたい。それにしてもイタリアは景観が日本に似ている。ロンドンにいる日本人がよくイタリアにいく秘密がわかったような気がする。山並は志賀高原だし、海岸は伊豆半島に本当によく似ている。わたしも久しぶりに日本に帰ったような錯覚に陥ってしまう。それにしても安いツァーだったので、どこにいってもチキンが出るのには閉口した。帰って来たら、ロンドンがまるで違って見える。外国にいてもホリデーは必要なのだと悟った。これに味をしめて、十二月にギリシャを旅したいなと思う。日本から送金をたのむかだ。


11/6/77 SAN

自分の部屋にかえったというのに、ひどいホームシックに襲われている。いつも誰かといっしょでたのしいおしゃべりをして過ごしたので、ひとりでいることが耐えられない。イタリアが素晴らしかったので、このままロンドンにいるのが辛いほどだ。アナに手紙を書こう。ミラノで日本語を教えて暮らすというもの悪くない。この一週間、いちども日本語を使わずに過ごしたけれど寂しいことはなかった。あちこちで出会う日本人の観光客たちが、イギリス人の中に混ざって旅しているわたしをふしぎそうに見つめていた。こういうのは気分がいい。


11/11/77 FRI

きょうで三日も学校を休んでしまった。きのう12/22の帰国を早めようと思い、出かけようとしたところ鍵を置き忘れて、出かけられなかった。飛行機に乗るのは、縁起をかつぐので、やはり12/22に日航機でかえることにする。でも、その前にギリシャに行こう。学校がおわったら荷物を作って、一週間後に出かけるつもりだ。学校が魅力なくなったことも確かだが、こういう自分の気持ちを大切にしていきたいと思っている。


11/14/77 MON

ひさりぶりに学校にいったので、クラスメイトたちがどうしたのと大騒ぎである。真面目なわたしが来ないので、誘拐でもされたのではないかと心配していたのだといわれて悪い気もしなかった。一応病気だったということにしておく。この数日学校にはいかずに、いろいろと将来のことを考えていた。いつまでも親に心配は掛けられないから、働かなければいけないと思う。イタリアで仲良しになったスゥー親子がボーンマスでパブを開いているのだ。会いに行きたいなと思う。デビットのクラスになっても楽しいことはない。毎日文法ばかりで、穴埋め問題。これじゃあ、受験と同じじゃないか。マイクやトニ−だったら、学校休もうとは思わなかった。


11/16/77 WED

思い上がっているかもしれないが、ここでこんなつまらないことに時間を費やしているよりも大学で専門を学ぶことに力を注ぐべきだと思う。二年コースの願書を一生懸命書いています。ロンドンは専門の学問をするには最高のところかも知れない。本屋さんはたくさんあるし、図書館も揃っている。


11/19/77 SAT

きょうは二十四回めのお誕生日。前からの計画では盛大なパーティを行うはずだったのに、やはりひとりぼっちの誕生日。まあ悪くもない。気を使うこともないし、特別祝ってもらいたいひとはここにはないから。来週からは政治学の勉強に精出さなくちゃいけないし、こうやって、ひとりで孤独をかみしめることも大切。わたしは働いてもいないし、親から送金してもらって、安逸をむさぼっているだけのような気もする。


11/22/77 TUE

いよいよ帰国まで一月となった。その前祝いというわけでもないが、久しぶりにOxfordまで出かけて洋服や、靴などを見て来た。考えてみればすぐわかることなのだが、モンブランのKing's Buleが欲しくて、£1では心もとないので、銀行に寄り、スローン・スクエアまで歩いて、ピータージョンーズを冷やかし、137番のバスでマーブル・アーチまで行き、少し歩いた。わたしの一連の気分のふさぎと不眠は運動不足のせいだと気付いていたから、努めて歩いた。練習帳みたいなノートを買って来る。はじめにここに来たとき買ったノートがないのです。W.H.SMITHもだめなのです。どうもこの国には紙が足りなくて、新聞もたかいが、ノートも高い、なぜだろう。


11/19/77 SAT

母親から手紙がきて、それによると£500も送ってくれるという。毛皮のコートくらい買える金額だ。それともギリシャにいこうか。手紙を読んでいたら急に元気になる。久しぶりに贅沢したい気持ち。King's Roadに目を付けている毛皮屋さんがある。ここで手ごろなコートを買って、差額でギリシャに行くことに決めた。ユーミンの歌を聞きながら、日本の本を読み過ぎて、頭痛がしていたのを思い出す。


11/24/77 THU

お金なんて持ちつけない人が持つと急に気が大きくなって、あちこちひっかかって、New Bond Stree なんぞを歩いてしまった。始めはもっと純粋で、テート・ギャラリーに行きたかったのだけれど、11番のバスを待っていた。でも乗り換えるのが面倒臭くなって、National Galleryに着いた。十時すこしまわっただけだから空いていて、わたし一人なんですもの、モネとかゴッホとか、ルノアールとか好きなだけ見て、ああいいなあとしみじみ思った。わたしはいつもここで感動するのだけれど、それが持続しない。ひとまわりして、例の宗教画がはじまるともうだめ。どれも同じようにみえてしまう。この金ピカの絵は薄暗い教会の中にあってこそ、厳かだけれど、こんな明るい光の中では輝かない。そして、あちこちに人の姿が見えかくれすると、もう集中できない。結局、きれいな絵はがきを何枚がかってお終いにした。お昼はマ−キーの通りにあるイタリアン・レストランで食べた。マ−キーの前にある映画館結構いいじゃない。水曜日には"地球に堕ちてきた男(デビット・ボウイ主演)"をやっていたのだ。気が付かなかったおばかさん。明日は"ベニスに死す(ヴィヨルン・アンドレセン主演)" をやるのか、迷っているのよ。お財布を見つめながら。これでも本人は贅沢貧乏をしているつもり。


11/26/77 SAT

どこにも出かけないで済む自由。だって今日は土曜日ですもの。お金があれば、パリもいい、あそこは楽しいところよ。もう少し言葉を勉強しくなちゃ。せめて店の看板くらい読めて、バス停の時刻表がわからないと歩けない。明日はいよいよ"ウッドストック"見るのです。


11/27/77 SUN

いつまで続くか分からないけれど、今朝も快晴。気分も上々です。条件法についての予習もして、勉強も頑張っている。世界の都ロンドンにいるのに、パリに行こうか、ローマにしようか、それともギリシャに決めるかなんて悩んでいる。母親が送ってくれた£500は、毛皮を買うには少し足りない、かといって、パリで買い物してきたら申し訳ないでしょう。


11/28/77 MON

きのう文子さんの家に行って預けていた日本の本を貰って来た。お気に入りの本が全部いまここにあるので、機嫌がよい。源氏物語なぞむさぶるようにして読んでしまった。とにかくお金をおろさなくちゃと銀行にいってPost Officeに寄ると、いろいろと待たされたが、電話のデポジット£25あまり、あすにでも送金してくれるって。真面目に申告してよかった。そこでFleet Streetにあるトーマス・クックでギリシャの旅を予約した。六時に起きて出かけなければいけません。ミニキャブも予約しなくちゃ。途中、夕日がきれいで、ウエストミンスター寺院やビックベンを見ていたら、なんどこうして励まされたことか、この国にもうすこしいてもいいと思う。ギリシャから帰って来て、12/22には日本に帰るのだ。


ウッドストックの感想。
昔好きだったひとは今も胸が痛む。ア−ロ・ガスリーを見たとき、心臓がとまるかと思った。アリスのリストランいらい、この人が好き。いつも美しいものに囲まれて暮らしたいと思う。最後に赤い花柄のスカーフを鮮やかに頭に巻き付けたジミヘンのギターで終わってあっけない幕切れだった。このフィルムを編集した人は、ほんとうに音楽を愛しているのだろうか。若者たちの生態を見せるよりも、ひとつ一つのアーティストをもっと長く演奏させてほしかった。サンタナなんか、いまのほうがずっと洗練されている。しかし、見終わって、ひとりでSOHOを歩いていて、ここは夜女の子が歩くところではないと思った。


11/30/77 WED

朝起きたら、手紙がきていて、母からのお金がとどきました。郵便局からもお金が届く。King's Roadの毛皮屋さんで£325 のフォックスがあった。わたしが着るとKnee(膝丈)なんだけれど、きっと現地のひとには短すぎて売れ残っていたのだ。税金分として、£32.8戻ってくるし、£1=450 円で計算するとなんと13万ちょっと。信じられない安さです。おかげで家族に土産を買って帰ることができそう。よかった。



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