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▲1977年留学日記にもどる
1977年2月
2/1/77 TUE

ひさしぶりに本屋さんをのぞいてみる。それも、いつも行く、文学の棚ではなく、辞書や学習参考書の棚。すると熱い思いがこみあげてくる。なぜ私の青春時代、空しさをこれらで埋めようとはしなかったのか。勉強すべきときにしなかったから、空っぽだったのだ。ロンドンで精神的に参ったとき、迷わず、勉強しようと思う。フランス語が読めて、しゃべれるように、そして、英作文が出来るように。そのコーナーで長いことかかって、一冊の英作文の本を選んだ。人間っていくつになっても、学ぶことを放棄してはいけない。少しづつでも知識の積み重ねが歳をとっていく以外、まともな生き方はないのだ。私にはそれがよくわかる。なまけもののくせに、難しいことを始終考え付く。だから勉強することは、似合っている。無理をしなくても、心で納得できるのだ。英作文の基本を始めるといろいろなことを思い出す。何のために大学にいったのだろうか。四年間で無為を学び、おわりにやっと自分の馬鹿さ加減に気が付いた。まだまだやらなければならないことがたくさんあるのだ。一年間の準備期間があっても足りなかったはずですよ。本当にあと一月。今週もポンドが強そうなんで嫌になりますね。私、五十歳くらいになっても、やはり英語にしがみついて、勉強しようと思います。


2/3/77 THU

節分の日。豆まきをした。二十三の春が始まる。It is very fine today and there are no clouds in the sky. 冬、日本の大平洋側の晴天は南仏も、地中海沿岸もおよばないほどのすばらしさだ。私は本に囲まれて暮らすのが好きだ。人間って何かしら知識を得ていないと、無感覚な動物になってしまう。特に私はそうだ。ずばぬけて社会との適応力を持ってはいるものの、ともすれば閉鎖社会を強固にしようと考える。そういう意味でも、旅することはよいことだと思う。欧州は、まだ文明と自然がはっきりと区別されている。ロンドンに着いたら、公立図書館や本屋さんを探そう。自分の生活の場というものを決めれば、人間ってどこに行っても暮らせるものだ。私は日本人だということを忘れない。そして外国で暮らす日本人になるということだ。不安も恐れもない。神を信じていればいいのだ。私の運命があらかじめ決められているなら、私はロンドンに行くようになっていたのだ。それはだれも邪魔できない。


2/23/77 WED

回数券の残片が一日一日と減っていく。あと十日あまりとなった。私はたくさんの本を読む。


2/24/77 THU

久しぶりに暖かな日曜日だった。私は明日から一週間が始まるというのに、こんなに元気だ。だって、明日で仕事ともお別れだから。この解放感。どんなに散らかっていても、自分の部屋はいい。チェルシーの自分の部屋が気に入るかしら。文子さんからきのう、手紙を受け取った。住まいと学校が決まれば、おそろしいことは何もない。



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