YES コンサート 1998.10.9 渋谷公会堂 19:00 - 21:23
Member List
Jon Anderson: Vocals
Steve Howe: Guitars and vocals
Billy Sherwood: Guitars
Chris Squire: Bass and vocals
Alan White: Drums
Igor Khoroshev: Keyboards70年代の前半、プログレ、ハード・ロックに夢中になった時期がある。日本公演を見るために朝早くから並んだり、武道館のアリーナ席のC、Dブロックのチケットを取るために必死で電話予約したこともあった。何度か、チケットを買ううちに友だちもでき、同じコンサートなら、渋谷公会堂の方が狭いのでアーティストとの一体感があることがわかった。また、人気のあるアーティストの追加公演が狙い目で、驚くようなよい席が手に入った。だから武道館でみたアーティストより、こじんまりした渋谷公会堂のコンサートの方が印象に残っている。
今宵、ほぼ二十年ぶりで公園通りを歩き、渋谷公会堂に着いた。中に入るとさすがに懐かしい。昔いなかった背広姿の警備員や、開始前の注意事項を列挙する場内放送には時代を感じる。たしかステージの前の柵はなく、警備の人がそでに隠れるように立っていたと記憶するが、さだかではない。
YESの日本公演がこの渋谷公会堂で開催されたのに、出掛けた記憶がなかった。なぜだろうかと不思議な気がして調べたら73年の2月だったという。このときわたしは大学受験でまったく余裕がなかった。ELPの日本公演も、ZEPのもなぜか見逃している。74年にロンドンに出掛けたのは、そんな悔しさもあったのだろうか。
正直にいっておくが、70年代の音楽しか知らないし、YESの1997年作品Open Your Eyesはまだ聴いたことがない。でも今回のコンサートは楽しかった。無知といわれるのを覚悟でいえば、まさにYessongsを踏襲し、Close to the EdgeとFragileで味付けしている。基本はあくまで70年代だ。これにはいくつかの意味があると思う。
まず、ジョン・アンダーソンが何度も繰り返し説明したいたように、これは25年ぶりの同窓会なのだ。
日本にまた来られてとても嬉しい。YESもいろんなことがあったが、そんなに長い間、わたしたちの曲を聴いてくれて応援してくれてありがとう。25年前もわたしはここに立っていた、いや、もうすこし左、ちょぅどこのステージのセンターに立って歌った。今日はここの場所で歌うけれど、それは73年に歌った曲 The Solid Time Of Change・・・
というように、随所に70年代の思いが伝わってくる。YESの最高の時期をともにしたJon、Steve、そしてChrisの3人が、分裂と再編成を何度か繰り替えし、また揃って日本にやってきたのだから、昔ことを考えてしまうのは当然のことだろう。楽しいのは、新しいキーボード担当のIgor Khoroshev (イゴール・コロシェフ)がリック・ウエイクマンと同様な金髪だということ、これは偶然の一致なのだろうか(もっともリックはストレート・ロングだったが)。25年前には、あそこにリック・ウエイクマンが立っていたのだと想像するとぞくぞくするほど嬉しい。
最近のロック・コンサートは知らないのに自然に思えたのは、あれは古き良きブリティシュ・ロック・コンサートの形式に乗っ取っていたからではないかと推測する。昔は、みんなあんなやり方でお客様と対話しながら進んで行った。演奏時間も二時間を越えていた。聴衆があまりに行儀よく座って、音楽を楽しんでいたので、最後の方で、ジョン・アンダーソンが促すように全員総立ちにさせた。両手を頭の上にかざし、拍手する。そこで一気に盛上がったような気がする。演奏が終わると、そのままアンコールのための拍手に代り、ややしばらくして戻ってきた彼らのアンコール曲はRoundaboutだった。これを用意していたあたりも、70年代のいい意味での締めくくりを意識していたのだろう。
知らない曲も楽しめたのは、音質がよかったせいだと思う。73年にはまだ8ビット・マイコンすらなかった。それが今は64ビット・マイコンが出ている。昔、シンセサイザーは数千万して、それを使えることができたのは、限られたアーティストたちだった。今は、もっと小さくても性能のよいものができたし、Igor Khoroshevはロシア生まれだといっていたが、使っているのはすべてYAMAHAだった。コンパクトなのにもおどろいたが、機械が全部目立たないほど小さくなっている。音響や照明もこの25年で格段に進歩した。そんなエレクトロニクスの進歩に助けられてか、シンフォニー・ロックと呼ばれたYESも、みごとに蘇ったのだといえるのではないか。
しかし、ジョン・アンダーソンの美しい歌声、 スティーヴ・ハウの神がかったギター・テクニック、クリス・スクワイアのますます冴えたベースなどには驚かされる。レコードでしか聴いたことがなかったので、よく知っている曲がどんな楽器を使って構成されているのか、多くの発見があった。ずっと、YESというのはリック・ウエイクマンのシンセで音を出しているのだと信じていたので、キーパートを スティーヴ・ハウが奏でるのをこの目で見て、彼がいなかったらYESは再生できなかったろうと、確信する。
何度もいうようだが、70年代から訣別して、新生YESの第一歩を歩み出すために、この公演はぜひとも不可欠だったのだと思う。そんな中で自分自身も70年代の体験と重ね合すことができ、幸運な出会いだったとう。最後にこんなコンサートに参加するきっかけを作ってくれたカシミールさんに、感謝の意を表したい。夏休みに始めに先行予約した席は1階15列12、13番で、前が通路になっていたので、隣の人の出入りに煩わされることなく集中できた。ほんとうにありがとう。