EL&P [Works I, II]

2枚の非対称なアルバム。1977年当時、わたしはもうロックを聴いていなかった。今頃になって、おとなになってから聞き直してみると、彼らの若さがまぶしい。成功を知っているものが、やがてしのびよる崩壊に向かって、静かな歩みを続けている。贅沢なアルバムだ。クラシックといってもいいWorks I, とちょっとやくざなWorks II。これが生っ粋のイギリス人のやり方である。すごく丁寧だが相手をバカにするという、話し方をロンドンの語学スクールでは当たり前のようにして、教えてくれた。慇懃無礼というやつだ。この頃のELPはたぶん何をしても許されたのではないか。C'est La Vie が代表的な音楽だと思われているところも、皮肉で愉しい。グレックが、この声を保持していたら、解散なんかするひとがなかったのに、悔やまれてならない。
EL&P [Live at the Royal Albert Hall]

92年の10月、わたしはどこにいたのだろうか。復活したグレック・レイクには、昔の澄んだ歌声は戻らないが、でも音楽を楽しんでいるアーティストの姿が鮮明に浮かんでくる。飛んだり、跳ねたりして演奏するキースが見えるようだ。フルオーケストラをバックにプログレを弾くのはどんな気持ちがしたのか。それもロイヤル・アルバート・ホールである。どうも、演奏者側の気持ちばかり考えてしまう。ELPのライブは一度だけロンドンで見たが、この演奏会になぜ行かなかったのだろうか。そのとき、きっとフィレンツェかベニスでイタリアの粋な男(アルマーニやベルサーチ)に夢中になっていたに違いない。それ以外にこんなすてきなコンサートを見のがす理由が思い当たらないのだ。
EL&P [Tarkus]

祖母に連れられ、初めてヨーロッパに出掛けたとき、飛行機の窓越しに見えた景色がこのジャケットと同様の虹色だった。沈んで行くのか、上っているのか、はっきりしない太陽が空を照らして、青い空の下はくっきりとした七色に塗られていた。たぶんこのレコードをいちばん多くきいたのだと思う。久しぶりに聴いたとき、涙がとまらなかった。もう、二度と聴きたくないと思った。自分が失ったものと、その重さがぜんぶ、そのとき分かったのだ。決して残酷な年月というわけではないが、やはり昔持っていて、今はもつことのできないものがある。 だれよりもそのことを分かっているつもりだ。そんな心の思いを真正面から突いてきて、いたたまれなくしたのが、このアルバム。心の弱っているときには、聴いてはいけないと自分に言い聞かせている。
EL&P [Ladies & Gentlemen]

これを聴くと必ず回顧モードに入ってしまう。74年にロンドンで見たコンサートの模様があざやかに浮かんできて、そのまま一気にタイムスリップしてしまうのだ。ここには、わたしのよく知っているELPが凝縮されて詰まっている。なぜこのグループが好きだったのか。それは、いつも新しい発見があったからだ。馴染みのあるクラシック音楽と、電子音が奏でる近未来への創造、それは20年以上たったいまも新しい。彼らの遊びは高級で、その落ちはずいぶんたってから、ようやく納得する。 昔は気付かなかったが、キースの話す英語は中流の上の出身を示している。イギリスでは話し言葉で階級がはっきりわかるから不思議だ。
EL&P [Brain Salad Surgery]

ELPが好きだといいながらも、熱心にきいたのはTrilogyまでで、20年ぶりに聴いてみたCDには馴染みがない曲ばかりだった。たしかにグレック・レイクの若い頃の声だし、あのキーボードは一流のショウマンのキース・エマ−ソンのはずである。きれいにはまとまっていて、美しいという形容詞がぴったりだが、あの火を吹くような熱さが伝わってこない。マグマの固まりのような激しさはどこにいったのだろうか。まだ聞き方が足りないのだろうか。いつも思っていることだが、70年代の音楽はいつも生活と密着していて、鮮明な記憶がまとわりついているのだ。だが、その記憶の部分がなぜか欠落している。このアルバム、日本では評判になったはず。だが、このあとわたし自身は急速に興味を失ったのも事実である。


EL&P [EMERSON, LAKE & PALMER]

今更なんですが、EL&Pが好きなのはグレック・レイクの声が大好きだから。キングクリムゾンの宮殿でも、彼の歌うEPITAPH (墓碑銘)の詩が知りたいばかりに、英語の辞書を片手に一生懸命、訳を作りました。そのグレックが参加したというので、EL&Pのファースト・アルバムを買ってさっそく聞いてみたのです。でも、ジャズっぽいメロディばかりで、歌はほんの少ししかない。始めはつまらないと思っていたのですが、なんどもなんども繰り返し聞くうちに、川の流れが聞こえてきて、あたりの景色が目の前に広がりました。すると、このアルバムのもつ空間というのが、時空を超えているのに気付きました。好きとか、嫌いだとかいう前に、このアルバムを作ったアーティストたちは、何週間も練習して、レコーディングしているわけです。ですから、そのくらいの時間と回数は聞き込んで、つまり、彼らに付き合ってから、評価を下しても遅くはないと考えたのです。当時の高校生にしては少しませていましたね。